ウイルス性食中毒
ノロウイルス(SRSV:小型球形ウイルス)  ロタウイルス  アデノウイルス
アストロウイルス  A型肝炎ウイルス



ウイルス性食中毒

食中毒の原因を大きく分けると、サルモネラなどの細菌による細菌性食中毒、メタノールなどの化学物質による食中毒、フグ毒・カビ毒などの自然毒による食中毒及び、ウイルスによるウイルス性食中毒の4つに分類されます。

ウイルスによる食中毒の1998年の発生状況は、下表のように事件数で全体の4.1%、患者数で全体の11.3%を占めています。

1998年食中毒発生状況(資料:厚生省)
原因物質 事件数(件) 患者数(人)
細菌 2,620 36,337
ウイルス 123 5,213
化学物質 14 216
自然毒 147 524
その他 781
原因不明 105 3,108
総数 3,010 46,179

ヒトに下痢症を起こすウイルスには、rotavirus(ロタウイルス)、adenovirus(アデノウイルス)、astrovirus(アストロウイルス)、calicivirus(カリシウイルス)、 coronavirus(コロナウイルス)などがあります。なかでも、ノロウイルス(SRSV:小型球形ウイルス)による食中毒がもっとも多いとされています。


ノロウイルス(SRSV:小型球形ウイルス)による食中毒    ノロウイルス 電子顕微鏡写真
 
small round structured virus

冬季に発生する食中毒のほとんどは、ウイルスが原因とされていますが、その中でも、90%以上がノロウイルス(SRSV)によって起こっているとされています。

原因食品は生カキや魚介類が多く、摂取後1〜2日後に突然吐き気に襲われ、嘔吐や下痢が1〜2日くらい続きます。また、頭痛、発熱、咽頭痛などカゼとよく似た症状が見られる場合もあります。これらの症状が出ているとき、嘔吐物や糞便中にウイルスが排泄されているので、家族などへの二次感染に注意が必要です。

夏季にはウイルス性食中毒の報告がされないなど、ノロウイルスの生態は不明ですが、感染経路については次のように考えられています。冬季にヒトの小腸で増殖したウイルスは糞便中に排泄され、下水から沿海へと流出していきます。ごく微量なウイルス量ですが、暴露し続けるうちに、貝の中腸腺に蓄積されていき、未加熱のカキなどを食べることで感染を起こします。特に、沿岸部で養殖されているカキやホタテ我意などの2枚貝は一日に120〜600リットルもの海水を体内に循環させているとされ、ウイルスが蓄積されやすいといえます。

ウイルス性食中毒の予防法としては、
 
@カキなど貝類は生食を避け、加熱処理をする。
 
Aカキなどの調理に使った水が他の食材にかからないようにする。
 
B下痢、カゼの症状がある場合は調理を行わない。
ことなどがあります。


ロタウイルス(rotavirus)     ロタウイルス 電子顕微鏡写真

冬場にみられる乳幼児下痢症の原因ウイルスです。ロタウイルスによる下痢症は全世界で発生していますが、栄養状態の悪い熱帯地方の発展途上国では乳幼児の死亡の重要な原因の一つにもなっています。
生後4ヶ月から2歳位までの乳幼児に多発し、突然の嘔吐から始まり、水様性の下痢がみられます。下痢便の色は米のトギ汁様の白色または黄白色を呈することが多いのが特徴で、白色便下痢症と呼ばれることもあります。経過は1週間程度で、予後は良いのですが、脱水症状になりやすいので注意が必要です。



アデノウイルス(adenovirus)

急性咽頭炎、プール熱と呼ばれる咽頭結膜炎などの上気道感染、流行結膜炎、肺炎、急性出血性膀胱炎などを起こすウイルスで、胃腸炎を合併しやすいのも特徴です。粘膜やリンパ組織に親和性があり、小児の胃腸炎患者の約10%はアデノウイルスが原因とされています。小児の散発的な患者発生のほかにも、院内感染や施設内流行といった小規模な集団発生を起こすこともあります。症状は下痢が主で、ロタウイルスの場合と同様、脱水症状に注意が必要です。


アストロウイルス(astrovirus)

乳幼児下痢症で、非ロタウイルス、非アデノウイルスが疑われた場合の原因ウイルスとして疑います。


急性胃腸炎を起こすその他のウイルス

上記以外にも、ノルウォークウイルス(norwalkvirus)と類似ウイルス、コロナウイルス(coronavirus)、A型肝炎イルス(HAV)などが急性胃腸炎を起こします。

A型肝炎ウイルス(hepatitis A virus)

A〜G型まで数種類もある肝炎ウイルスのなかで、A型肝炎ウイルスによる肝炎は慢性化することがほとんどなく、また最近では国内での感染事例は少なく、海外での感染が多いのが特徴です。幼児期に感染をしても発症しない(不顕性感染)か軽症の場合がほとんどですが、免疫持たない中高年者の場合は、重症化する場合があります。
原因は、A型肝炎に汚染された水や食品の喫食に経口感染で、糞便から2次感染する場合があります。海外での生水や生水で作った非加熱食品には注意が必要です。 症状は2〜6週間の潜伏期間後、急性肝炎を起こし、下痢、発熱、嘔吐、倦怠感などのカゼに似た症状が続き、黄疸が数週間見られます。予後は比較的良好です