スタフィロコッカス属は、和名でブドウ球菌と言った方が一般的にはわかりやすいかもしれません。このブドウ球菌というのはスタフィロコッカス属菌の総称で、自然界に広く分布しており、ヒトの皮膚や鼻腔、腸管、外尿道、そのほかの粘膜面などに常在しています(特に化膿した傷口)。
現在、ブドウ球菌には28菌種あり、コアグラーゼというウサギやヒトの血漿(血液から白血球や赤血球などの血球成分を取り除いたもの)を凝固させる酵素を持っているかどうかでコアグラーゼ陽性群と陰性群に分けられます。
コアグラーゼ陽性群の代表は、食中毒の起因菌である
黄色ブドウ球菌(S.aureus)です。コアグラーゼ陰性群には表皮ブドウ球菌(S.epidermidis)や腐生ブドウ球菌(S.saprophyicus)があり、一括してコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS:Coagulase Negative Staphylococus)と呼ばれることがあります。病原性は黄色ブドウ球菌が最も強く、一般的にコアグラーゼ陰性ブドウ球菌(CNS)は弱いとされていますが、近年このCNSによる感染症が増加しており、留置血管内カテーテルからの感染で心内膜炎や菌血症を起こすことが問題になっています。
黄色ブドウ球菌(S.aureus) 黄色ブドウ球菌 電子顕微鏡写真
黄色ブドウ球菌による食中毒は、この菌が食品中で増殖するときに産生する外毒素の一つである腸管毒素(エンテロトキシン)によって起こる毒素型食中毒です。ブドウ球菌そのものは熱に弱いのですが、この腸管毒素は100℃30分の加熱でも分解されないため、食品を10℃以下で保存するなどの菌の増殖防止が重要なポイントです。
原因食品は「おにぎり」が多く、他に折詰弁当や仕出し弁当、和菓子、シュークリームなどが代表的なものです。潜伏期間は短く1〜6時間で嘔吐や腹痛、下痢が起こりますが高い熱はあまりでません。また予後も軽く、1〜2日で快方に向かいます。
黄色ブドウ球菌は、一般的に化膿症の原因菌ですが、コアグラーゼや腸管毒素の他にも多くの代謝産物である外毒素を産生することで、種々の疾患を起こします。毒素性ショック症候群毒素(TSST-1)はその名の通り毒素性ショック症候群を引き起こし、エクソフォリアチンは表皮剥脱を起こす外毒素で皮膚剥脱症候群(SSSS)を引き起こします。他に溶血毒素や白血球毒(ロイコシジン)、繊維素溶解素などの代謝産物があります。
MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)
細菌感染には治療薬として抗生物質が用いられますが、細菌も対抗手段としてその抗生物質を無効にする物質を作りだします。このイタチゴッコによって、1980年代より院内感染の主要な原因菌として話題に上るメチシリンという抗生物質が無効なMRSAが登場しました。健常保菌者より感染し、敗血症などの重篤な症状を引き起こします。
現在では、MRSAに有効とされていたバンコマイシンという抗生物質も効かないVRSA(バンコマイシン耐性黄色ブドウ球菌)が出現してきています。
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