シゲラ属菌(和名:赤痢菌属)には4菌種あり、2類感染症(旧法定伝染病)である細菌性赤痢の原因菌です。
赤痢(dysentery)には赤痢菌によって起こる細菌性赤痢と、原虫である赤痢アメーバによって起こるアメーバ赤痢がありますが、19世紀中頃までは両者の区別ができませんでした。
赤痢菌が初めて発見されたのは日本(東京)で、1898年に志賀潔によって志賀赤痢菌(Shigella dysenteriae)が分離されました。次いで、フレキシネル菌(S.flexneri)、ボイド菌(S.boydii)、ソンネ菌(S.sonnei)の3菌種が発見されました。
赤痢菌の生化学的性状は大腸菌(E.coli) に近似しており、両者の中間的性状を持つ生物型が見られ、他にも抗原性に共通点がみられます。
細菌性赤痢
赤痢菌は哺乳類の腸管に生息して、ヒトとサルに感染性腸炎を起こします。本来はヒトにのみ感染性を持つ菌ですが、特殊な条件下でサルに赤痢様症状が発現することがあります。汚染食品、汚染水から経口的に感染し、大腸の上皮細胞に侵入して壊死、潰瘍を作ります。典型的な細菌性赤痢は、48時間前後の潜伏期間後発症し、発熱と一日数十回におよぶ粘血性下痢を起こします。多くは、しぶり腹(テネスムス:tenesmus)とよばれる腹痛の症状を呈します。発症後、便中の赤痢菌が陰性化するまで1〜2週間かかります。
菌種による症状は、通常、志賀赤痢菌(特にT型)が、外毒素(神経毒、細胞変性毒素)を産生するため最も重症で、フレキシネル菌、ボイド菌が次ぎ、ソンネ菌による場合は軽症です。日本での細菌性赤痢は、過去はソンネ菌によるものが最も多かったのですが、最近は、国内での感染は減少し、海外旅行者が、インド、ネパール、東南アジア、中南米、アフリカなどで感染する(輸入感染症)例が増加し、フレキシネル菌、ソンネ菌による感染例が多くなっています。まれな例として、輸入サルの赤痢からの二次感染例もあります。
(参考)アメーバ赤痢
アメーバ赤痢は、原虫である赤痢アメーバ(Entamoeba histolytica)によっておこる赤痢で、旧伝染病予防法では細菌性赤痢と同様に法定伝染病とされていましたが、現在は4類感染症に分類されています。
赤痢アメーバは、その名が示すように組織(histo)を溶かす(lytica)性質をもち、アメーバ赤痢やアメーバ性肝膿瘍などの疾患を起こします。アメーバ赤痢は一時期減少していましたが、海外での感染や同性愛者間の性行為感染症として、1979年頃から増加傾向を示しています。
感染は赤痢アメーバの嚢子で汚染された飲料水や食物からの経口感染で、数日から数ヶ月の潜伏期間後、腹痛と下痢が起こります。一日に数十回の下痢、粘液と血液の混じったイチゴゼリー状の粘血便が特徴ですが、発熱は見られません。
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