サルモネラは食中毒(感染性腸炎)の原因菌や2類感染症であるチフス、パラチフスの原因菌となる数千種類の膨大な菌種、菌型群の総称です。
分類学的には、S.choleraesuis(サルモネラ・コレレスイス)中の亜種として下記の6亜種に分類されています。
S.choleraesuis subsp.holeraesuis (亜種T群)
S.choleraesuis subsp.salamae(亜種U群)
S.choleraesuis subsp.arizonae(亜種Va群)
S.choleraesuis subsp.diarizonae(亜種Vb群)
S.choleraesuis subsp.houfenae(亜種W群)
S.choleraesuis subsp.bongori (亜種X群)
ヒト、家畜などサルモネラ症から分類されるほとんどのサルモネラは、亜種"choleraesuis"(T群)と"arizonae"(Va群)で、その他の亜種の大半は爬虫類、食品、下水、河川水などに由来します。人に対する病原性がほとんどないものから、急性胃腸炎、菌血症(チフス症)を起こすものまであります。感染は口からの経口感染により発症します。
血清型による分類は、サルモネラのO抗原67種類とH抗原80種類および一部の菌の持つK抗原の抗原性の組み合わせで分類されます。これら抗原の組み合わせにより、約2,300種類もの血清型が存在します。1999年に全国的に集団発生したイカ菓子によるサルモネラ食中毒事例では、血清型O7群のサルモネラ・オラニエンブルグと血清型O4群のサルモネラ・チェスターが検出されています。
サルモネラによる食中毒は、サルモネラ菌が10000〜1000000CFU/gという単位以上に増殖した食品で過去に食中毒が発生しています。サルモネラ・エンテリティディスでは、数十個の菌量で発生すると報告もあります。食品衛生法では食肉製品についてサルモネラ属菌が陰性であると規定されています。この菌は、鶏、豚、牛、ペット、スッポンやウナギなどのほとんどの動物が腸管に持っているため、その糞便が川水や土を汚染し、その土壌の農作物まで汚染されます。また、サルモネラが付着した卵や肉などを原材料として使用したときに調理済みの食品を汚染したり、時には調理者がサルモネラの保菌者となり、その人が食品を汚染し、食中毒を引き起こします。
症状は、喫食後半日から2日後までに吐き気やへそ周辺の腹痛から始まり、38度くらいの発熱と水様性の便や軟便が出て下痢を繰り返します。この症状が1〜4日続き、ほとんどが点滴や抗生物質で治ります。カゼと症状が似ているので注意が必要です。サルモネラは一般的に乾燥には強く、熱には弱いため、十分加熱することが予防のポイ
ントです。
チフス菌(S.typhi) 血清型:O9群
2類感染症(旧:法定伝染病)の腸チフスを起こすチフス菌(S.typhi)は、戦後の日本の代表的な伝染病でしたが、最近では輸入感染症として増加の傾向にあります。経口感染したチフス菌は、小腸からリンパ組織に入り血流にのって菌血症を起こします。潜伏期間は2週間前後で、39℃以上の高熱、バラ疹、脾腫、下痢などの症状がみられ、重症の場合には、腸穿孔、腸管出血、脳炎などが起こります。保菌者として、胆嚢内にチフス菌が保有され、胆石症の原因になることもあります。原因食品では、カキなどの貝類の生食や豆腐、サラダなどの報告があります。
パラチフスA菌(S.paratyphi A) 、パラチフスB菌(S.paratyphi B) 血清型:O2、O4群
チフスと同様に2類感染症であるパラチフスはパラチフスA菌、パラチフスB菌によって起こります。
パラチフスA菌は人にのみ病原性を示し、パラチフスB菌は人以外にも保菌されています。症状は腸チフスと同様ですが、チフスよりは比較的軽症です。
腸炎菌(S.enteritidis) 血清型:O9群 腸炎菌 電子顕微鏡写真
サルモネラ・エンテリティディス(和名:腸炎菌)は、食中毒を起こすサルモネラの中でも病原性が強く、近年では汚染された鶏卵による食中毒が増加しています。原因食品は、生卵、オムレツ、卵焼き、自家製マヨネーズ、親子丼など鶏卵を原料とした十分な加熱工程のない食品や食肉加工品、生肉、生レバーなどがあります。
ネズミチフス菌(S.typhimurium) 血清型:O4群
血清型O4群に属するサルモネラ・ティフィリウム(和名:ネズミチフス菌)は、本来ネズミが宿主の菌ですが、他の動物種にも感染して菌血症や食中毒を起こします。
アリゾナ菌(S.arizonae)
ヘビ、トカゲなどの常在菌で、ヒトに食中毒を起こします。
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