クロストリジウム属の菌は一般に嫌気性菌と呼ばれる偏性嫌気性菌で、無酸素の状態でのみ増殖ができ、酸素はこの属の菌に有害に作用して菌を死滅させてしまいます。しかし、クロストリジウム属の菌は発育に不適当な環境におかれると芽胞と呼ばれる厚い皮膜に包まれた球状体に変わり、冬眠の様な状態で数年から10数年にわたって生存することができます。芽胞の状態にあるときには、100℃4時間以上の加熱にも耐えることができ、121℃15分の高圧滅菌でやっとほとんどの菌を死滅させることができます。この芽胞の状態は、発育条件がそろうと通常の菌体に戻り増殖を始めます。
ウエルシュ菌(C.perfringens)
ウエルシュ菌は1890年代にイギリス、ドイツ、フランスでそれぞれ別個に発見され、現在はクロストリジウム・パーフリンジェンス(C.perfringens)という名称で分類されていますが、以前は C.welchii と呼ばれていたため、現在でも慣用的にウェルシュ菌と呼ばれています。
人や動物の腸管、土壌、海水など自然界に広く分布しており、昔は「ガス壊疸菌」として恐れられていました。ウエルシュ菌による食中毒は、食品を大釜などで大量に料理するときによく起こります。加熱により食品の中心部分が無酸素状態となり他の細菌は死滅しますがウェルシュ菌は芽胞の状態で生き残り、温度がウエルシュ菌の発育しやすい45℃前後に冷えたときに通常の菌体に戻り増殖が始まります。
この菌の増殖した食品を食べると、腸管内で芽胞に変わり、このとき毒素を産生し食中毒を起こします。この菌には「加熱済みの食品は安心」という常識が通用しないので注意が必要です。
食中毒以外には、傷口からに侵入で感染し、感染の進行とともに創部の肉、組織の壊死、大量のガス発生、毒素による全身症状を起こす「ガス壊疸」があります。
ボツリヌス菌(C.botulinum)
ボツリヌス菌の正式名は、クロストリジウム・ボツリナム(C.botulinum)で、当初ソーセージやハムなどの保存肉製品による中毒者から検出されたことから、ソーセージの意味の
botulus から命名されました。
ボツリヌス菌による食中毒は菌の腸管内での増殖によって起こるのではなく、食品中で増殖し産生された毒素を摂取することで起こります。ボツリヌス菌はA〜F型に分類され、日本ではE型菌による食中毒が多く、アメリカではA型菌、ヨーロッパではE型菌によることが多いとされています。ボツリヌス菌の産生する毒素は数百gで人類を死滅させることができるほど強力な神経毒で、胃腸症状のほかに、末梢神経と結合して嚥下不能、呼吸筋マヒなどを起こし致死率は30〜70%とされています。
食中毒以外には、傷口から侵入して起こる「創傷ボツリヌス症」や乳児がハチミツや土に混入したボツリヌス菌を摂取して起こる「乳児ボツリヌス症」などがあります。
クロストリジウム・ディフィシル(C.difficile)
クロストリジウム・ディフィシルは、健常な方々の糞便から分離される場合もありますが、腸内に常在している菌(常在菌)ではなく、また、健常者由来の菌株は毒素を産生しないことが多いです。この菌は多く種類の抗生物質が効かない(耐性)菌であるため、抗生物質の投与によって他の菌が死滅するとこの菌だけが生き残り異常増殖(菌交代現象)をし、毒素を産生するようになります。この産生する毒素(エンテロトキシン、サイトトキシン)が腸管粘膜に障害を起こし、軽症では軟便、重症では激しい下痢、腹痛、高熱を伴う、円形に隆起した偽膜ができる偽膜性大腸炎を発症します。
クロストリジウム・テタニ(C.tetani、和名:破傷風菌)
破傷風の原因菌で、自然界、特に土の中に芽胞の形で存在します。近年、破傷風の日本での発症例は数十名で、感染後に産生される毒素(テタノスパミン)によって特有の症状である、三叉神経の硬直、嚥下困難、開口困難、全身性けいれんが起こり、死にいたる場合もあります。
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