バシラス属は、食中毒の起因菌であるセレウス菌(Bacillus cereus)や炭疸の原因菌である炭疸菌(B.anthracis)など34菌種を含みます。バシラス属菌はクロストリジウム属菌(ウェルシュ菌、ボツリヌス菌を含む属)と同じく芽胞を作る菌ですが、酸素のある条件下では増殖できないウェルシュ菌、ボツリヌス菌などとは異なり、酸素のある条件下でも増殖することができます。
セレウス菌(Bacillus cereus)
セレウス菌は、土壌、水中、空中、植物表面など自然界に広く分布しており、ヒトや動物の糞便中からも検出されます。一般的には非病原性とされていますが、食品に付着した菌が保存中に増殖し、急性胃腸炎(食中毒)を起こす場合があります。
セレウス菌による食中毒には、下痢と腹痛を主徴とする下痢型食中毒と、吐き気、嘔吐、下痢を主徴とする嘔吐型食中毒の2種類に大別されます(下痢型は1970年以前は数多く報告されていましたが、1971年以降は嘔吐型が増えています)。予後は比較的良いのですが、心内膜炎、敗血症、化膿性疾患を起こす場合もあります。
下痢型食中毒は感染型食中毒で、腸管内でセレウス菌が増殖する際に産生する下痢原性毒素によって引き起こされます(潜伏期間は8〜22時間)。一方、嘔吐型食中毒は、食品中でセレウス菌が増殖する際に産生する嘔吐毒素によります。すでに飲食時には毒素があるため、潜伏期間は1〜5時間と短く、時間の経過と共に下痢原性毒素の産生により下痢症状も呈します。また、下痢型と嘔吐型は原因食品にも違いがあり、下痢>型は、食肉、鶏肉、スープ、野菜の煮物、プリン、ソースなど原因ですが、嘔吐型は、焼きめし、ピラフ、めん類、スパゲッティ、オムライスなどの穀物が原因であるのが特徴です。
食中毒菌以外のバシルス属菌
炭疸菌(B.anthracis)
もともとウシ、ヒツジなどの家畜の病気である炭疸(anthracis)または脾脱疸の原因菌で、まれにヒトにも感染を起こします。ヒトでは家畜や獣毛を扱う職業に多かったため、woolsorter’s
diseaseとも言われますが、日本ではまれな病気です。炭疸菌によって汚染された飼料を食べた家畜の腸内で、芽胞が通常の菌体となり増殖し、血中に入り敗血症を起こします。ヒトには経口感染する場合もありますが、創部から経皮的に感染することが多く、局所に悪性膿疱ができ、血中に入り敗血症を起こします。血液は暗黒色となり脾腫を呈します。菌の侵入部位によって、芽胞を吸い込むと肺炭疸、食物と共に取り込むと腸炭疸などの病型がみられます。
枯草菌(B.subtilis)
自然界に広く分布し、牛乳、枯草、塵埃、下水、土壌などに多数存在しています。非病原性ですが、眼球が傷つけられた後に、結膜炎、虹彩炎、
全眼球炎などの眼感染を起こす場合があります。
バシラス・ステアロサーモフィラス(B.stearothermophilus)
非病原性の菌で、60℃の高温環境でも増殖し、耐熱性の高い芽胞を形成するため、加圧滅菌器や酸化エチレンガス滅菌器などの性能を調べる
試験菌として用いられています。
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